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「ちょっと違った未来7」 ※原作IF 京介×桐乃 【登場人物の立ち位置まとめ】 高坂京介 大学生 内定済み 養子 高坂桐乃 大学生 高坂大介 警察官 高坂佳乃 主婦 五更瑠璃 SE 槇島沙織 女子大生 田村麻奈実 大学生 赤城浩平 大学生 ~~~ 今俺は実家の高坂家の玄関門の前に居る。…前に来たのはちょっと前だから久しぶりってわけでもないか。そんなことを考えながらチャイムを指で押す。 ピンポーン! 『はーい!』 扉の奥から声が聞こえる。お袋だ。 ガチャ 「あら京介、ずいぶん早かったじゃない。」 「はは、まあな。沙織達が来る前に部屋の片付けを手伝おうと思ってさ。」 「あらそう。でももう片付けなら終わっちゃったわ。それより京介…。 「何?」 お袋が少し真剣な口調で、 「わざわざチャイムなんて鳴らさずに鍵使えばいいじゃない。」 「そりゃまあ…そうだけどよ…。」 俺が養子だから気を使っていると、気遣ってくれてんのか。 息子に対する優しさに、感動しかけたその時…。 「いまちょうどお気に入りのドラマの再放送の録画見ていたところなのに…。」 いやいやそういう理由かよ! そんなのアリか、という俺の心の中のツッコミなど全く伝わっていないようで、お袋はそそくさと玄関に上がる。 すると親父も出てきた。 「おう京介。今来たか。」 「ただいま帰りました。親父も元気そうだな。」 「何を言っている。この前会ったばかりだろうが。」 「まあそうだけどよ。」 「あ、それと。京介。」 お袋が部屋に戻らずにひょいっと話を挟んできた。 「あんた就職して警察学校出てもまだ一人暮らしするの?」 「いや…この先どうするかはまだ決めてないけど。」 勤務地にもよるしな。まだ未定だ。 するとお袋はこういった。 「そう、だったらまたウチに戻ってきなさい。」 「え?」 「前に寝る前にお父さんとも話したんだけど、やっぱりあんた実家に戻ってきなさい。それで実家から通勤すればいいじゃない。」 「え…いいの?」 「よくないわけないだろう。就職したての時はなにかと苦しいときがある。すこしでもいい、ウチにいなさい。」 「お父さんのお弁当もお夕飯も一緒に作れるから楽だわ~♪それにあんたずいぶん料理が上手になったっていうじゃない。桐乃によく聞いてたのよ。当番制にしたらお母さん助かるわあ~。」 「それが本音かよ…。」 「やーね、それ『も』本音よ。」 「京介が就職したてならあまり無理は…。」 「なあに?じゃああたしが作れないときはいつもどおり桐乃に変わってもらってもいいの?」 「そ、それは…。」 苦虫を噛み潰したような顔をする親父。娘の桐乃のことがいと愛しな親父だから差し出された料理は絶対に断れない。 …そういえば、前に教えてもらったことがある。舌が味を認識する前に飲み込むんだ、と。 極道顔した親父にあるまじき小賢しい小技(?)を使っても、なお桐乃の料理は壊滅的にまずいらしく、涙を流しながら飲み込んでいた。 …愛と苦渋に溢れた笑顔で。 しゅんとする親父をよそにお袋が、 「そういうこと。それに…桐乃のこともあるし、お兄ちゃんにやっぱり帰ってきて欲しいわ。」 「そう…だよな。」 桐乃の記憶はすぐに戻るのか、この先まだまだかかるのか。全く解らない。 今現在でさえ元通りのあいつに戻る兆候ははしりさえない。 そうだよな…今借りてるアパートも学生用だし、次わざわざ見つけてまで一人暮らしする必要もないしな…。 「わかったよ、お袋、親父。また一緒に暮らそう。」 「あらまあ、ふふふ…。やっぱりお兄ちゃんね。」 「ばっ、そんなんじゃねえよ。いや、そうだけどよ…。」 「とりあえず、こんなところで立ち話もなんだ。さっさと入れ。槇島さんと五更さんはまだだろう?」 「ああ。来る前に連絡くれるって。それと…桐乃は…?自分の部屋か?」 黒髪に戻った俺の妹の美少女。いつもならぎこちなくも後ろから顔だけは見せるのに…。 「ええ。部屋よ。後で行ってあげて。」 「わかった。それとお袋…。」 「なあに?」 「桐乃に料理、教えたのかな?あと誰か教えたとかさ…。」 俺はかねてよりの疑問を口にした。 「あの子ったらいくら教えても一向に上達しないからね~。教えるのやめちゃったわ。」 「まあまあ。夫婦のどちらかが出来ればいいんだ。京介に任せておけばいいだろう。」 「それもそうね。なに?また変な料理出されたの?」 「いや…そういうわけじゃないんだけど…。」 親父達、桐乃の料理をあの事故以来食べてないのか。 「まあいいや。今から桐乃の部屋行ってくるわ。」 俺は二階にあがるため、階段に足をかけた。 ~~~ 「桐乃?いるか?」 シーン あれ?返事がないぞ? 「桐乃?開けるぞ?」 ガチャ 「って、ええ?」 扉を開けたら、壁が出現していた。 「桐乃?」 返事がない。こないだの事もある。まさかまた…。 「桐乃!?おい、桐乃!?」 ドンドンドン!と出現した本棚の壁を叩く。 すると奥から、 「ふぇ?きょ、京介さん?」 「桐乃?大丈夫か!?」 「ふぇ…?あれ、ここは…。え!?あ、あの!その…!?ちょ、ちょっと待ってくださ~い!」 桐乃が叫ぶように声を返してきた。続いて急いでなにか物を放り込むような音が聞こえる。 それからしばらくして…。 ズズズズズ…。 扉の前で壁になっていた本棚を元に戻す。 「お、お待たせしました。」 かいた冷や汗を左手で拭いつつ、我が妹が取り繕うような笑顔を向けてきた。 「ああ。今帰ったよ。」 「く、黒猫さんと沙織さんはまだ…ですよね?」 「ああ。つってもあいつらのことだ、もう連絡が来ると思うけどよ。」 「そ、そですか。」 「ところで桐乃。」 「は、はい!」 びくっ、と反応する妹に声をかけた。 「見たのか?」 「え、あ、あの、その。」 ひとさし指を交互に当ててもじもじする。 「…やっぱり見たのか…。」 「は、はい…。」 はあ~。遅かったか…。 「凄かったろ?おまえのオタクグッズ…。」 「はい…。」 どうも桐乃は情報を処理しきれていないらしい。 無理もねえ…。俺だって同じ立場におかれたらと思うとぞっとする。あの暗黒物質(ダークマター)の品々…。考えるだに恐ろしいわ。 ふう…。 「桐乃。」 「は、はい。」 「おまえ、よくあの隠し場所が見つけられたな。誰かに聞いたのか?」 「い、いいえ…。」 「じゃあ、誰に?」 桐乃はきゅっと口もとを引き締めて、 「あ、『あたし』のSNSサイトにあたしだけが見れるページがあって…。そこに色んなこと書いてました…。」 え、まじで? こいつ…わりと丁寧だったんだな。そんなことまで…。 「はい。最初は自分のことを思い出そうと昔の日記を見てたんですけど…。そのページに「あたしのお宝♪」って書いてあったから興味が出ちゃって…いてもたってもいられなく。」 「それで、か…。」 「はい…。」 なんというトラップ。心の準備も何もないまま「お宝♪」を探した桐乃の心を狙い打つかのような…。 しかし思い立ったら即行動ってのがいかにも桐乃らしいな。 そんな俺の微笑む姿をみて不思議に思ったのか、桐乃が、 「ど、どうかしたんですか?」 「いや、なんでもねえよ。沙織達が来るまでお袋達と一緒に飲み物でも飲んで待ってようぜ。」 「は、はい!」 桐乃はうれしそうな笑顔を見せる。 あのアパートでの一件以来、俺に子犬のように懐いてくる桐乃。 …麻奈実達が来た時の桐乃は以前の桐乃のようにぎくしゃくしたものだった。それにすこし冷たくなった感じもしたけど…。 「えへへ…。」 この様子を見ると、どうやら俺の杞憂、かもな。 ~~~ 「こんにちわ。お父様、お母様。本日はよろしくお願いしますわ。」 「これはこれは…槇島さん、五更さん。この度は京介と桐乃がご迷惑をかけて…。」 時間通りに訪れた瑠璃と沙織を家族4人で出迎える。 頭を下げる親父とお袋に瑠璃と沙織が慌てて止めにかかる。 「あ、頭を上げてください。私達こそ大したこともできずに…。」 瑠璃が困惑した様子で声をかけた。 「とんでもない!此度のことでどれだけお二方に助けられたか…。あらためてお礼を申し上げたい。本当に、ありがとう。」 瑠璃と沙織は桐乃の入院中よく見舞いに訪れてくれて、特に瑠璃は仕事が忙しい中、病院が近いという理由で頻繁に世話を焼いてくれた。 二人とも記憶喪失のことを勉強してくれたり、沙織は沙織で知り合いの有名な先生にコンタクトを取ってくれたりもした。 沙織や瑠璃だけじゃない。皆だ。皆に今回のことでたくさんのことをしてもらった。いや、してもらっている。 このことに親父とお袋は、きちんともう一度お礼をしたいと言っていた。 「あの…これ…先ほど瑠璃ちゃんと道中買ってきたものです。よろしければ…。」 「まあまあまあ!どうもありがとう。あら!これってあの有名な…。注文まで時間がかかったでしょう?」 笑顔で恐縮するお袋に沙織は笑顔で、 「いえいえ。出来立てですので是非、皆さんでお召し上がり下さい。」 「ありがたくいただきます。こんなところでいつまでもなんですから、どうぞあがってくださいな。」 お袋が家の中へ手招きする。 「ではお邪魔いたします。」 「お邪魔しますわ。」 「ま、今日はゆっくりしてってくれよ。」 スタスタスタスタ…。 階段を上り桐乃の部屋に4人で入る。 今日は久方ぶりの「オタクっ娘あつまれ~」の集まりだ。 瑠璃は寒暖系のシックな服装で、沙織は仕立てのいいお嬢様スタイルで。 4年前のスタイルのゴシックロリータの格好や野暮ったいオタクファッションはしていない。 …まあそれだけ時がたったということか。 「どう、桐乃?その後は。何か変わったことがあったかしら?」 「と、特にはなにも…。」 「う~ん、きりりん氏は相変わらずめんこいですなあ~。」 この会だけ「ござる」になる沙織。 しかし…、よく見ると圧巻だな…。 元勝ち気系・現小動物系美少女の桐乃。 桐乃とはベクトルが違うクール美人ともいうべき瑠璃。 それと今まで出会ってきたどんな女性よりも美しいと感じた沙織。 …この家に全く合ってねえ…ミスマッチといえばミスマッチだ。こんな光景、モデルの現場でも滅多にねえんじゃねえか? でも、第三者が見れば異様っちゃ異様だが…こいつらにこれほど似合う光景もないよな、と思う。 「今日は何するよ?久しぶりにシスカリプスの最新作でもするか?」 「あら?あなたはそれでいいの?私の一人勝ちが目に浮かぶのだけど。」 そりゃおまえの独壇場だろうよ。ちょっとやそっとであの腕前が衰えるとは思えない。 「桐乃?あなたはそれでいいかしら?ゲームのやり方、覚えてる?」 「え、あの…ごめんなさい。」 まあ多分覚えてないとは思ってたがよ。何言ってんだ、俺。 ポリポリと頭をかく俺に気をつかったのか、沙織が、 「そうだ!だったらよく皆でしてた妹人生ゲームでもしませんか?」 「妹…人生ゲーム?」 きょとんとする桐乃に瑠璃が、 「ええ…レトロなボードゲームでね…。先に妹と結婚して子供産んだら勝ち、っていうゲーム。…貴女が大好きなゲームだったわ。」 「へええ…。」 出されたボード版を見ながら興味津々な顔を見せる桐乃。 そんな桐乃を見ながら俺は沙織に耳打ちをする。 「たしかこれ作った会社って…。」 「ええ…とっくに倒産されてまする。」 まあこんだけ公序良俗(?)に反するようなゲームだ。半端に社会の耳目を集めて電話で袋叩きに合っている光景が目に浮かぶ。 記憶を失っていようがいまいがこんなこと、あんだけ楽しんでる当の本人(桐乃)に言えないよな…。 「まあこれだと桐乃も楽しめるしな…。よし、それじゃはじめるか!」 「お手柔らかにでござるよ~。」 「今度こそ婚姻届提出までこぎつけてみせるわ。」 そうして俺達の時間がすぎていくーーー。
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372 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/01/07(金) 23 51 39 ID V5HNxkxw0 [3/3] 「おじゃましまぁーす」 間延びした声が聞こえる。 「チッ、あいつ・・・また地味子連れ込んで・・・キモッ」 何故だか知らないけど愚痴るわたし。 ただ地味子が来ただけ。あいつの部屋に入っただけ。 それなのに、なんだかモヤモヤした感情が胸の中で渦巻く。 「最近、調子崩れてんのかなぁ・・・わたし。寝不足だし・・・ふあーぁ」 それらしい答えを出して納得する。 きりりん@あいつが家に女連れ込んでるんだけど :居心地悪いったらありゃしない。早く出て行かないかなー。 †千葉の堕天聖黒猫†:それは・・・本心から言ってるの? きりりん@あいつが家に女連れ込んでるんだけど :愚痴って何が悪いのよ。あんな地味な女、どうして好きなのやら。 沙織(管理人):それはつまり、きりりんさんが嫉妬なさってるのでは? きりりん@あいつが家に女連れ込んでるんだけど :ハァ?それはないない。あんな地味な女、眼中に無いって言うかー(笑) †千葉の堕天聖黒猫†:じゃあなんで愚痴ってるのかしら? きりりん@あいつが家に女連れ込んでるんだけど :ここはわたしも住んでるの!あいつだけの家じゃないんだから当然愚痴るでしょ! 沙織(管理人):京介お兄様からお聞きした話ですときりりんさんも友達をよくお連れになさるとか。 †千葉の堕天聖黒猫†:人のことは言えないわね。 きりりん@あいつが家に女連れ込んでるんだけど :そもそも、わたしはそんなに度々男なんて連れ込まないしー。 †千葉の堕天聖黒猫†:そもそもあなたに忍び寄る男の影なんて存在するのかしら。 きりりん@あいつが家に女連れ込んでるんだけど :ハァ?言っておくけど、私は学校では結構もててるんだからね。 †千葉の堕天聖黒猫†:でも浮いた話ないじゃない。 きりりん@あいつが家に女連れ込んでるんだけど :そりゃ、断るに決まってじゃん!私が目指す理想の人はぁ・・・ 沙織(管理人):ふふっ、やっぱり、京介お兄様がお似合いですわね。 きりりん@あいつが家に女連れ込んでるんだけど :ちょっg、勝手にあうつのk名前だghなさいでよ!気もい!k”きもうぃ!っきおみ!キモい! †千葉の堕天聖黒猫†:図星ね。人間って本当に不便な生き物だわ。 沙織(管理人):きりりんさんはわかりやすくてお友達になれて本当に良かったです。 きりりん@あいつが家に女連れ込んでるんだけど :これは!ちょっと手が狂っただけで! †千葉の堕天聖黒猫†:慌てて否定するとかえって認めてると捉えられる現象はご存知? 沙織(管理人):では京介お兄様とお幸せに。 きりりん@あいつが家に女連れ込んでるんだけど :まだ話があるのに落ちんなー! -------------
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我が家の日常風景~あなたとサンタとクリスマス~ --「メリークリスマス!」 沙織「いやはや皆様、今夜は私が主催するクリスマスパーティに参加くださいましてありがとうございます」 今日はクリスマスイヴ、珍しく桐乃の裏表の友達にゲー研の連中+αまで集まって騒いでいる。 加奈子「よーし、いっぱい食うぞ~うおーウマそう!」 あやせ「ちょっと加奈子!はしたないよ」 桐乃「うへへ…珠希ちゃんこっちにおいでよーお兄ちゃんがあーんしてあげるから!」 珠希「え…えーと…」 瀬菜「日向ちゃんお姉さんって家でもあんな感じなんですか?」 日向「えーとねールリ姉は家では……」 何かよくわからないがみんな勝手に飲み食いをしながら雑談をしているようだ…俺はというと…… 瑠璃「京介、この衣装は似合っているかしら…」 京介「おお!もちろんさ可愛いよ瑠璃。そのサンタの衣装もお前が作ったのか?」 瑠璃「ありがとう。そうよ今回も私のお手製よ」 瑠璃「それに、この衣装にしたのも京介にわたしを---」 沙織「さて!そろそろプレゼント交換会を開催したいと思います!」 瑠璃の言葉は沙織にかき消されてしまってよく聞こえなかった まあ…そんなこんなでくじを引いて誰かのプレゼントが俺の手元にきたわけだが… ふたりとも薄っぺらい封筒に入ったプレゼントのようだ。まさか現金や金券というわけでもないだろう 瑠璃「あら…これは何かしら…チケット?」 京介「あれ…俺のも瑠璃のと一緒なんだけど」 沙織「おー!京介氏と黒猫氏はサンタからの特別プレゼントが当たったようですな!」 沙織「それはイブの今日とクリスマス当日の明日に高級ホテルに泊まることができる”ペア”の招待券ですぞ!なんと千葉の某王国フリーチケットのおまけ付き!」 日向「おめでとうルリ姉!今夜はおたのしみですね!wwww」 瀬菜「あーそんなプレゼントがそれも五更さんと高坂先輩がペアで当たるなんてほんと偶然デスネーホント」 赤城「高坂ついにお前も漢を見せるときがきたか…」ニヤニヤ 京介「今日と明日!?急すぎんだろ!?ってか明らかにみんなの反応からして仕組まれた感がするんだが!」 日向「ああ、うち大丈夫だよ?お母さんたちには言ってあるから」 御鏡「高坂くんのご両親にも僕から説明したから」 京介「ってかなんで御鏡が俺の親にそんな話をしてるの!?」 瑠璃「…京介。クリスマスを私と一緒にふたりきりで過ごすのは…いや?」 京介「……ふぅ。いや急で驚いただけさ。そうだよな今年はアイドル活動もないし初めてクリスマスを一日中ふたりで過ごせるんだな…」 京介「よし!こうなったらその高級ホテルとやらにいってやろうじゃないか、今すぐだ!」 瑠璃「ふふ、私がサンタになってプレゼントをしようと思っていたのだけれど…その必要はないようね」 瑠璃「さあ、京介。わたしをつれていって?あなたと同じ場所へ」
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規格番号 発売時期 タイトル アーティスト SOLL-8 1972年8月 NEW SOUNDS IN BRASS NEW SOUNDS WIND ENSEMBLE SOLL-48 1973年10月21日 バイバイグッドバイサラバイ 斉藤哲夫 SOLL-50 1973年10月21日 また見つけたよ 友部正人 SOLL-52 1973年11月21日 金色のライオン 岡林信康 SOLL-57 1973年12月21日 百恵セカンド・アルバム 青い果実/禁じられた遊び 山口百恵 SOLL-65 1974年4月21日 15才のテーマ 百恵の季節 山口百恵 SOLL-68 1974年6月21日 ひろみの朝・昼・晩 郷ひろみ SOLL-71 1974年6月21日 誰のために愛するか 朝倉理恵 SOLL-75 1974年8月1日 15才のテーマ ひと夏の経験/山口百恵 山口百恵 SOLL-81 1974年8月21日 南沙織/ファースト・アルバム 17才 南沙織 SOLL-113 1974年12月10日 HIROMI・ON・STAGEーよろしく哀愁ー 郷ひろみ SOLL-114 1974年12月10日 15才/山口百恵 山口百恵 SOLL-121 1975年2月21日 黄昏気分 中川イサト SOLL-125 1975年3月21日 誰もぼくの絵を描けないだろう 友部正人 SOLL-137 1975年4月21日 ひとさし指/朝倉理恵 朝倉理恵 SOLL-141 1975年5月1日 16才のテーマ/山口百恵 山口百恵 SOLL-144 1975年6月21日 Cynthia Street 南沙織 SOLL-147 1975年6月21日 ひろみの旅/郷ひろみ 郷ひろみ SOLL-176 1975年10月1日 酔醒 古井戸 SOLL-180 1975年10月21日 なやみ 杉良太郎 SOLL-191 1975年11月21日 HIROMIC WORLD/郷ひろみ 郷ひろみ SOLL-194 1975年12月5日 人恋しくて 南沙織 SOLL-195 1975年12月5日 ささやかな欲望 山口百恵 SOLL-201 1975年12月5日 杉良太郎着流し艶歌 杉良太郎
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131 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/04/02(土) 12 25 39.51 ID 25KGQKDeO 129 京介「この満面の笑みは誰に向けられているんだ?」 135 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/04/02(土) 12 39 16.62 ID OSgPVrzoi 131 桐乃「何意味わかんないこと言ってんの?はい、アンタのジュース」 137 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/04/02(土) 12 47 04.78 ID z/70COhMP [1/5] 135 沙織「はっはっは! まず最初に入れたジュースを京介氏に渡すあたりきりりん氏もわかりやすいでござるなあ!」 桐乃「な、何意味わかんないこと言ってんのあんた!? べ、別にこんなの普通でしょ普通!」 黒猫「あらあら、最優先がお兄さんなのが普通だなんて。これは惚気られてるのかしら? ねえ沙織?」 沙織「拙者、当てられてつい顔が赤くなってしまうでござるよ」 桐乃「あ、あ、あ、アンタ達ーーーーーーー!!」 京介「相変わらず騒がしいやつらだな。ま、こういうのも悪くねえか」 -------------
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558 名前: ◆qPOxbu9P76[sage saga] 投稿日:2010/12/27(月) 23 49 58.36 ID 8r2M5M2o 沙織「第二回!京介氏争奪大闇鍋大会ぃ~!」 京介「おい!なんで人数が増えてるんだ!」 加奈子「こんな面白そうなイベント見逃すわけね~べ?」 ブリジット「私は参加したら恋愛について何かわかるかなぁって」 フェイト「以前ご飯を奢ってもらったお礼よ」 瀬菜「私はひょっとしたらゲーム作成の資料になるかと思いまして」 おまえら完全に面白半分だよね? 京介「………ところで、そちらの鉄仮面さんはどちら様ですか?」 俺の知り合いに鉄仮面被った人なんていなかったはずなんだけど。 黒猫「ふ…あなたの妹よ」 京介「はぁ!?桐乃!?なんであんなもん付けてんだよ!」 黒猫「ふふふ…あの子は以前に抜け駆けしてしまったからその罰よ」 どんな罰だよ。 ん?でも、たしか桐乃ともう一人あやせに怒られてたよな? 京介「そういえばおまえも桐乃と一緒に怒られてたろ。おまえにペナルティ的なものはないの?」 黒猫「う…わ、私はないわ。そもそもあんなの抜け駆けには入らにゃああ!」 京介「うおおう!?いきなり大声出すんじゃない!」 あやせ「」ニヤニヤ いきなり大声で叫んだかと思うと、急に内股になりもじもじしだす黒猫。 顔も次第に赤くなってきていてどこか苦しそうな表情だ。 京介「お、おまえ大丈夫か?なんか苦しそうだけど」 黒猫「き、気にしないで。私は大丈夫だから」 京介「そ、そうか?とてもそうは見えねえけど…」 黒猫「大丈夫と言っているでしょう。なんていやらしい雄なのかしら」 なんで体調の心配をしただけでいやらしい雄扱いされなきゃならんのだ。 559 名前: ◆qPOxbu9P76[sage saga] 投稿日:2010/12/27(月) 23 51 27.86 ID 8r2M5M2o 沙織「さて、参加者の面通しも終わったところで早速闇鍋大会を始めさせて頂きとうござる。あやせ氏!」 あやせ「お兄さん、動かないで下さいね」 ガチャリ 京介「あのさ…この拘束は絶対必要なの?」 あやせ「え?…当然でしょう?」 当然なんだ。 俺にはその思考に至るまでの過程がさっぱり読めないよ。 麻奈実「ごめんね~、きょうちゃん」 次いでアイマスクで視界を奪われ完全に抵抗することは不可能となる。 沙織「ルールは前回と同じ!採点基準はネタ度、意外性、愛情の3つ!最終的に京介氏に選ばれた勝者が1週間京介氏に好き勝手できるという物でござる!司会は前回同様私、沙織・バジーナが務めさせて頂きます!では一番手どうぞ!」 主旨変わってないっすか?一応、俺争奪戦っていう体じゃなかったの? 前回同様レンゲが口元に料理?を運んでくる。 あれ?出汁が変わった?前回よりも出汁の匂いが強くなってるんだけど? まさか前回以上の物が出て来る予定で、その匂いを隠蔽するためじゃねえだろうな…。 ちゃんと食えるもんでありますように! ……芋?いや、それにしてはなんか油っぽい。しかも、一部分はパリパリしてるし、塩気が強い…… あぁ、ポテチか……よかった………まともなもので。 味の方は語るべくもないが、まともな食材というだけで高評価だ。 沙織「採点の方はお済ですか?では2番手どうぞ!」 再び口にレンゲが当てられ、開口を促す。 ………ぶふぉあ!生臭い! なにこれ!いや、この食感は多分きゅうりだけどなんなんだこの生臭さは!? きゅうり特有の青臭さとは違うし…… 鍋で煮るだけでこんなんなるの!?大惨事だろこれ……。 560 名前: ◆qPOxbu9P76[sage saga] 投稿日:2010/12/27(月) 23 53 21.99 ID 8r2M5M2o 沙織「人数も多いことですし、どんどん行きましょう。3番手!」 この独特の弾力は……こんにゃくゼリー? なんで鍋に甘いもの投入するの? しかもこのゼリーやたらでかいんだけど。俺が喉に詰まらせたらどうする気だ。 なんとかゼリーを咀嚼し、飲み込む。 なんとか窒息だけは免れたか……こりゃ愛情点は低ポイントだな。 ……俺、なんで冷静に採点し始めてるんだろうな。 沙織「では4番手!」 …これは……こんにゃく…だよな? なんというか……普通……まぁ俺としてはその方がありがたいんだけど…… なんだろうこの肩すかしを食らったような気分。 沙織「5番手!」 ん?固形物がないな…………って、コーヒーじゃねえか…これ。 確か、前回ラムネ飲料入れた奴がいたな。ひょっとして同じ奴か? なんでおまえは鍋に飲み物を混ぜたがるんだ。入れるにしても出汁との相性を考えてくれ。 沙織「そろそろ終盤、6番手!」 ん?今回はレンゲじゃないの? 俺が口を開くと、何やら棒状の食材が口の中へと挿入される 「……ハァ……ハァハァ……ハァハァ」 なんでこの人こんなに息が上がってんの?超怖いんですけど。 ともあれこれは……ソーセージか? いや、この大きさはフランクフルトって言った方が正しいのか。 別にまずくはなかったな。思ったより鍋に合ってた気がするし、これは高得点だな。 これをチョイスしたであろう人物が終始ハァハァ言ってたのが謎だけど。 563 名前: ◆qPOxbu9P76[sage saga] 投稿日:2010/12/27(月) 23 55 01.29 ID 8r2M5M2o 沙織「……えらいものを見てしまいましたな。では気を取り直して7番手!」 ……この味には覚えがある。前回の最後のと全く同じだ。 ってことはこれはチョコで、選んだのは桐乃ってことか? あの時は味なんてさっぱりわからなかったが、改めて味わってみると意外と美味い。 チョコの甘さと出汁の塩気がうまいことマッチしてる。 ポテチにチョコがかかってるあれと似たような感じだ。 意外性は満点をあげていいだろう。 沙織「終盤ですな。8番手!」 これは…衣があるってことは揚げ物?中身は……魚か? 案の定、衣が出汁吸ってべちょべちょじゃねえか…… また鍋に揚げ物か…以前のとんかつはどうせ麻奈実だろうけど今回は誰だ? 沙織「ではおおとり、9番手!」 あ、餅だ。うん、普通にうまいよ。 感想はそれだけだけど。 なんか、今回はまともなの多かったな。前回はサボテンとかヒトデとかだったし。 沙織「これにて終了でござる!では具材のネタバレを……」 京介「あ~、ほぼわかったからそれはいいわ。しなくても大丈夫だ」 沙織「そうですか、京介氏もすっかり慣れてきたようで。では順位の発表をどうぞ!」 慣れたくはなかったけどな! 前回は結局騒ぎにまぎれて順位はうやむやにしちまったわけだが今回はそうもいかなさそうだ。 全員が固唾を飲んで俺の動向をうかがっている。 あ、桐乃、さっきの鉄仮面取ってもらえたんだな。よかったな。 果たして俺は今回も俺生存√を選び取ることができるのか。 ……前回と同じセリフ言ったらさすがに怒られるかな? 京介「あ~、今回はだな……」 564 名前: ◆qPOxbu9P76[sage saga] 投稿日:2010/12/27(月) 23 55 31.05 ID 8r2M5M2o ―――――――――――― 桐乃「えへへ~、結局兄貴のことはあたしが一番よくわかってんだよね」 あれから二日後、俺は桐乃と”デート”を楽しんでいた。 なんでも、『まずはどっか楽しいとこ連れてって』というお願いだったからだ。 結局俺は7番目のチョコを選んだ。 なんだかんだで美味かったし、そういう意味で意外性も抜群だったからな。 チョコと鍋とか合うわけねえよって思うもんな普通。 京介「でもおまえ…2回連続で同じ具材ってのはちょっと芸がないんじゃないか?」 桐乃「ど、どうでもいいでしょ!……ってかなんで2回連続って知ってんの!?」 京介「ああ?だっておまえ、抜け駆けした罰であんな鉄仮面被ってたんだろ?前回抜け駆けしたって言えば最後のチョコのやつの……」 ここまで言ってしまってから気づいた。気づいてしまった。 お、俺は……じ、実の妹と……い、一線をこ、越え…… おあああああああ!なんてことだ!ちょっと考えたらわかることだったってのに!! 京介「お、おま…まさか……そんな………」 桐乃「………い、今更『やっぱなし』とか言わないよね?あ、あたし初めてだったんだよ?」 唇をとがらせ上目使いで抗議してくる桐乃。 心なしかその顔もうっすらと赤みを帯びている。 京介「お、俺達は兄妹だぞ!?」 桐乃「そんなの関係ないじゃん!……兄貴はあたしのこと…嫌い?」 京介「……チッ……嫌いなわけねえだろ」 桐乃「だよね!よかった!……えへへ、兄貴ってツンデレだよね~」 おまえはデレデレだけどな。 昔はツンどころか俺に関心すらなかったわけだがよくここまで変わったな。 565 名前: ◆qPOxbu9P76[sage saga] 投稿日:2010/12/27(月) 23 56 24.11 ID 8r2M5M2o 桐乃「はぁ?あたしがあんたに関心なかったとか寝ぼけてんの?」 京介「え?だってちょっと前までは冷戦状態だったじゃねえか」 桐乃「何ハーレム系主人公みたいなこと言っちゃってんの?…前あんたに見せようとしたアルバムあるでしょ?」 京介「留学前の時のか?」 桐乃「そう。あれに入ってるの全部兄貴の写真だから」 京介「え………はあああ!!?嘘だろ!?な、何言ってんのおまえ!?」 桐乃「嘘じゃないって、何なら帰ってから見てみる?小さいときの兄貴とかまじかわいくてさぁ~」 どうりで俺ん家に俺の写真が全然ないわけだ!こいつが根こそぎ持って行ってたのかよ!! 両手で頬を抑え悶えている桐乃。 おまえ…エロゲとか抜きにしても立派な変態だったんだな。 桐乃「だから兄貴、これからも末永くよろしくね!」 『だから』の意味はよくわからない。 だけど、俺が桐乃のことをよくわかってなかったのは確かで…… 京介「……仕方ねえな。こちらこそよろしくな」 だから、俺はもう少しこいつのことを理解する努力をしてやろうと思う。 ……今だけだからな!決して兄妹間の恋愛を認めたわけじゃないから勘違いすんなよな! 桐乃「ありがと兄貴!ちょー好き!愛してると言ってもいい!」 京介「お、大声でそんなこと叫ぶんじゃない!」 おわり
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http //pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1298520872/470-523 「では、この商店街を抜けましょうぞ。ここを抜けると、この街でも一番大きな神社の前に続く大通りに出るはずでおじゃ る。その大通りを神社の方に向かって行くと、この街でも指折りの歴史を持つ老舗のホテルがありますれば、そこのホテ ルの喫茶室でお茶でもいただきましょうぞ」 そう言うと、右手にスウェーデン軍のコートが入った紙袋を、左手に先ほど購入したモデルガンと騎士鉄十字章が 入った紙袋をそれぞれ提げて、颯爽と歩き出した。 なんだかんだ言っても、場を仕切るのは、いつも沙織なんだ。 俺は、苦笑すると、沙織のすぐ背後に居て、マントの入った紙袋を大事そうに抱えた黒猫を追いかけるようにして、 歩き出した。 薄暗いアーケードは、その後もしばらくは続き、琴や三味線等の和楽器を扱う店、茶と茶道具を扱う店とか、いかにも この街らしい老舗が軒を連ねていた。 「こんなバーもあるのね……」 和風な店の並びに、忽然と重厚なレンガ造りのショットバーらしきものが現れた。 レンガの角が丸まっているところとか、漆喰の黒ずみ具合とかで、その建物も相当に古いであろうことが分かった。 おそらくは、昭和初期か、下手すれば大正の頃に出来たのかも知れない。 「真昼間だから、今の時間は閉店してるんだな」 未成年の俺たちは、当分はお呼びでないところなんだが、いずれ、分別がついた大人になれたら来てみたい店だ。 そのとき、俺は独りさびしく飲んでいるんだろうか。それとも、気心の知れた仲間と一緒なんだろうか、又は、伴侶と なるような女性を伴っているんだろうか。 「あそこの和菓子屋が、この商店街の最後の店のようでござる」 餡の入った生麩を笹でくるんだ菓子が売られていた。この類の菓子は、さすがに田村屋でも作っていなかったな。 どうやら、この地方独特のものらしい。 その店の前を通り過ぎると、アーケードは終わりだった。 「アーケードを抜けると、こんなにも明るかったんだな……」 片側二車線の大通りには、初夏の陽光が降り注いでいた。 薄暗い白熱灯でぼんやりと照らされていた、あの商店街は、この大通りに出てみると、異空間だったんじゃないか という気がしてくる。 それに、アーケードの中は、地元の人間が圧倒的に多いような感じだったが、この大通りは、よそ行きというほどでも ないんだろうが、ちょっと派手めな服を着て、二、三人で連れだってあちこちをきょろきょろと見渡しながら歩く、旅行者っ ぽいのが目立っていた。 「おお、あれが目指すホテルのようでござるぞ。あちらの喫茶室か何かで、お茶でも飲みながら、各々方がご購入なされ た品々を吟味致しましょうぞ」 沙織が右手を突き出した方向には、都心のホテルとかに比べると、こじんまりしていて古びてはいるものの、佇まいに 老舗らしい風格があるホテルが建っていた。 「あのホテルなんだな?」 名前だけは、俺も聞いたことがあった。 何でも、地元の者は、ここで披露宴をするのが一種のステータスであることを下宿の女主人が言っていた。 それが本当かどうかは分からないが、とにかく格式あるホテルであることはたしかなようだ。 「何となく敷居が高そう……。コーヒー一杯だけで二千円も取ったりしないでしょうね?」 黒猫が、赤い瞳で沙織の顔を訝しげにねめつけている。 コーヒー一杯だけで二千円というのは、さすがにないとは思いたいが、本当のところはどうだか分からないからな。 それに、典型的なオタクファッションの沙織に、異彩を放つゴスロリファッションの黒猫、あ、ついでに垢抜けない学生 の雰囲気丸出しの俺が行っても大丈夫なのか? 入ろうとした途端に、体よく門前払いとかは、かなり凹むからな。 「どうなんだ? 茶代も気がかりだが、そもそも、俺たちなんかでも入れそうなところなのか?」 まさかとは思うが、本当はセレブに属する沙織の根回しとかがあって、こんな場違いな格好でも、喫茶室に入れたり して……。 だが、当の沙織は……、 「え~と、このホテルの喫茶室は……」 ガイドブックを開いて何やらブツブツと呟いている。 どうやら、沙織も、そのホテルでは『一見さん』に過ぎないらしい。 こりゃ、身なりとか、古着が入った紙袋を抱えている怪しさとかでペケかも知れねぇな。 だが、ここまで来て引き返すのも癪な話だ。 俺たちのことはお構いなしに、ずんずん先を行く沙織の後に、ひとまずは従うしかない。 その沙織は、今や、他所ではほとんど見られなくなった、手動式の回転ドアを右手で押している。俺と黒猫も、沙織の すぐ背後にへばりつくようにして、ホテルのロビーに足を踏み入れた。 広さ自体は、都心のホテルと大差はない感じだったが、高い天井と、その天井付近に、フレスコ画なんだろうか、空と 雲と、雪を抱いた山々と、豊穣の緑野が、うっすらとした色使いで描かれているのが、まずは目についた。 「おお! 天井のフレスコ画も含めて、これは紛れもなく、戦前以前の物件でしょうな。絵もすばらしいですが、灰色の大 理石を磨き上げ、要所に彫刻を施した、いい仕事をしておりますぞ。今となっては、こうした良質の石材は少のうござるし、 何よりも、このようなすばらしい彫刻やフレスコ画を施せる職人は居りませぬ。したがって、これと同じようなホテルは、 もう建てられないでしょうな」 「緋色の絨毯に、暗灰色の石材。魔界の者が棲み付きそうな雰囲気とでも、言うべきかしら」 石材の色は、どちらかというとニュートラルグレーなんだけどな。シックな雰囲気も、黒猫にかかれば、万事がこんな 調子だ。 たしかに暗い感じはするが、今風の、何が何でも明るい雰囲気ってのは、無理に元気を装っているというか、空々し いっていうか、とにかく薄っぺらな感じは否めないからな。俺みたいな地味な奴は、こうした適度に暗い方が何となく 落ち着くし、そこはかとなく感じられるノスタルジーが好きだ。 そういや、さっき買い物をした商店街も、薄暗くてノスタルジーを感じさせるってところは同じだな。通っている大学の 建物も古臭いが、その方が俺にとっては居心地がいい。 「で、喫茶室でおじゃるが……」 ロビーのすばらしさに気を取られて、ここへ来た本来の目的を一時失念していた。 ホテルの喫茶室は、宿泊客以外も利用しやすいように、というか、宿泊客でないよそ者は出来るだけ奥へは入れな いようにするため、大概は一階にあるもんだ。 果たせるかな。ロビーの右側には『喫茶室』と書かれた札が下がっている入り口が、観音開きになっている重厚な扉 を開けて控えていた。 「とにかく、入ってみましょうぞ」 黒猫が指摘したように、敷居が高そうで、俺たちは場違いな存在そのものという感じなんだが、沙織のみならず黒猫 までが、 「とにかく、堂々としていれば、係りの者も何も文句は言えないでしょうね」 と言って、心持ち胸を張って、扉をくぐっていく。俺も、彼女らに続いた。男子たる者が怯んでどうする。 「こっちは、ロビーと違って、明るい雰囲気なんだな」 壁の色はベージュで、テーブルとかの調度品も黒を基調とした落ち着いた雰囲気の物だったが、東側と南側が ガラス張りとでも表現出来そうなほどの広い窓で覆われており、そこから外の光が白いレースのカーテンを通して、 やんわりと導かれていた。 「シックな雰囲気なのに明るい……。悪くないわね」 俺も同感だな。何でもかんでも白系統の色で統一して、無理やりに明るさを演出したようなのは、どうにもいただけない。 そんなことを言い合いながら、俺たちは、喫茶室の入り口付近に三人で固まって、ウェイターを待った。 俺たちの存在に気付いた黒いスーツに蝶ネクタイがよく似合う長身の初老の男性が近づいてきた。 フロアマネージャーとか給仕長といったところだろうか。 門前払いか否か、ちょっとした正念場といった雰囲気に、俺は下げていた両手の拳を、ぐっと握り締めた。 「三名様でいらっしゃいますか?」 もしかしたら慇懃無礼という感じがしないではなかったが、あくまでも穏やかな物腰だった。 「そうです。わたくしども三名、こちらでお茶をいただきたいのですが、宜しいでしょうか?」 いつもの変てこな言葉遣いではなく、育ちのよさを窺わせる穏やかな言い方だった。 いや、この言い方こそが、本来の沙織なんだよな。 フロアマネージャーらしい初老の男性は、沙織の一言に一瞬意外そうに瞠目したような感じだった。 オタク丸出しの垢抜けない大女から、令嬢のような応答があるとは思っていなかったんだろう。 だが、一瞬意外に思っても、その初老の男性は、沙織の本質を見抜いたのかも知れない。 「それでしたら、窓際にお席をご用意できます。どうぞ、こちらへ……」 接客を長くやっているんだろうから、人を見掛だけでは判断しないんだな。 初老のウェイターは、俺たちのそれぞれのために、椅子を引いて、その椅子に座るように促すと、 「では、ご注文がお決まりでしたら、お呼びください」 とだけ告げて、フロアの端の方へと引っ込んで行った。一連の所作が流れるようで無駄がない。プロだな……。 「さて、各々方、何をいただくか決めようではござらんか」 メニューを開いてみた。 「意外にリーズナブルな感じかしら……」 『コーヒー一杯で二千円』とか言っていた黒猫が、ほっとしたように呟いた。 「ここは、コーヒーだけじゃなくて、紅茶も充実しているだな」 メニューには、『ダージリン 850円』、『アッサム 800円』とか、産地別にいくつかの紅茶の種類が列挙されていた。 「まぁ、少々お高いですが、紅茶はポットで供されるようですぞ。そうであれば、むしろ、割安でござろう」 たしかにな。ポットだったら、少なくとも二杯は飲めるだろうから、決して高くはない。 俺は、スリランカ産のウバをミルクティーで頼むことにした。黒猫と沙織は、ダージリンをやはりミルクティーで頼むようだ。 「ケーキもあるのね……」 俺はそんなに甘い物に執着はないからパスだったが、黒猫と沙織はチョコレートを使ったザッハトルテを注文した。 「では、黒猫氏。お茶とケーキが来るまでの間に、例の騎士鉄十字章の譲渡についての商談を致しましょうぞ」 「そうね……」 「なら、俺はちょっと席を外すよ。当事者たちだけの方が、具体的な金額を交渉しやすいだろうしさ」 俺は、右掌を二人に向けて軽く振りながら立ち上がった。 そういえば、携帯はマナーモードにして、メールも全然チェックしていなかったからな。 買い物の途中で、携帯が振動したような気がしたが、面倒臭かったから無視していた。 喫茶室を出て、ロビーの片隅に佇んだ俺は、携帯電話機を開き、メールや電話の着信を確認した。 着信があったとしても、どうせスパムか何かだろう程度にしか思わなかった。何せ、実家や桐乃とは、通話やメールは ご法度だったし、頼れる友人である赤城とは麻奈実を巡って微妙な関係になっちまったんだ。メールを寄越しそうな 沙織や黒猫は、今は一緒に行動している。だから、まっとうな相手からの連絡はまず考えられない。だが……、 「げっ!!」 俺は、メールの着信リストに、新垣あやせからのものを認めて絶句した。 しまった、久しぶりに黒猫や沙織に会えたんで、こいつのことをすっかり忘れていた。 「け、件名が、『大至急電話をください!』だとぉ?!」 件名からしてヤバそうな雰囲気がプンプンする。 俺は、震える指で、そのメールを選択して、読み始めた。 『お兄さん! どういうことですか?! 今しがた、五更先輩から、彼女がお兄さんの住む街に行っているっていう挑発的なメールが届きました。 どういうことですか? 今すぐ電話で説明してください。 ことと次第によっては、ブチ殺しますよ!!』 「(うわあっ!)」 なんてこった! その場で頭を抱えて絶叫したかったが、ここは閑静なロビーだ。俺は、歯噛みしながら、辛うじてその衝動を抑え込んだ。 俺はあらためて、あやせからのメールの時刻を目にし、それが今から一時間ほど前であることを確認した。 そろそろ、しびれを切らして、ブチ切れる寸前だろう。 黒猫があやせのメアドをなぜ知っているのか、黒猫が何でまたあやせに挑発的なメールを送ったのか、いろいろと 不可解な要素はあるが、兎にも角にも、あやせへの電話が先決だった。 桐乃の親友であるあやせへの電話は、両親、特にお袋からは厳禁されていたが、こいつは既に俺の居場所を知って いる。いまさら電話をするな云々は無意味だ。 「も、もしもし……」 我ながら、腰が引けて、おっかなびっくりなのが情けない。 『お兄さん……』 電話の相手は、それだけ言うと、ちょっと押し黙った。この間合いが何とも不気味だ。 「い、いやぁ、わりぃ。さっきメール貰ってたんだなぁ。そ、それで、電話したんだが、まぁ、ちょっと連絡が遅くなってすま ねぇ……」 場の雰囲気を和ますつもりで、ちょっとおどけたような口調で話しかけた。 だが、そいつが逆効果だったのかも知れねぇな。 こっちの釈明が終わらないうちに、俺の耳には、いきなり、『バカァ~、死ね!!』の悪罵がぶつけられた。さらに……、 『何を今まで、もたもたしていたんですか! 大方、五更先輩とのデートで、鼻の下をでれっと伸ばしていたんでしょ?! けがらわしい、破廉恥です。もう~っ、死ねっ!! 大体が、何でそっちに五更先輩が行ってるんですかぁ! お兄さんの 居場所は桐乃にも、桐乃に関係する人たち全てにも秘密だったはずじゃないですかぁ! どういうことですか?! ちゃんと分かるように説明してください。まさか、お兄さんが五更先輩に居場所を白状したんですか?! どうなんです? さっさと答えてください! さもないと、今からでもそっちに行って、ブチ殺しますよ!!』 耳をつんざくような大音響で、かつマシンガンのような勢いでまくし立てられた。 こりゃ、黒猫があやせに送ったとかいう挑発的なメールの内容とか、何で黒猫があやせのメアドを知っているのかと かを、あやせ本人から訊くのは後回しだな。 だが、この剣幕で、あやせと黒猫の高校での関係がどんなものなのか、大体は想像できた。 「ちょ、ちょっと、もう、ちょっと、ゆっくりしゃべってくれぇ! そんなに早口で、まくし立てられたんじゃ、こっちは対応の しようがねぇよ」 『お兄さんがさっさと電話をしてこないからです。それともう一つ、保科さんの野点の件はどうなっているんですか? それについても、お兄さんからは何の連絡もないようですけど。もし、わたしを除け者にして、お兄さんだけが保科さんの 野点に出て、その後で保科さんと何かしようものなら、本当に、ほ・ん・と・う・に、もう、ほ~~ん・と・にぃ! 包丁で めった刺しにして、ブチ殺しますからね!!』 今さらながら、あやせって、こえ~~~。 こいつの『ブチ殺します』ってのは、どこまで冗談だか分からねぇからな。 「ほ、保科さんの件なら、い、今のところ、何ら音沙汰なしだ」 『また、嘘吐いているんですね? その舌、閻魔様に代わって、引っこ抜きますよ!』 「ま、待て、待て、と、とにかく落ち着け!」 本当にこいつは、異常なまでに保科さんのことを敵視してやがる。 『だって、野点は来週の土曜日だっていうのに、何も連絡がないはずがありません!』 「いや、本当だってば……」 『でも、お兄さんは、大学で保科さんに毎日会っているんでしょ? それなのに、何の返事も貰っていないのは不自然 です!』 「お前なぁ……。大学ってのは高校と違って、クラスメートとの関係なんて疎遠なもんなんだぞ。それに保科さんは学園 のマドンナで高嶺の花。俺みたいな只の学生がおいそれと話しかけていい相手じゃないんだよ」 『でも、毎日同じ教室に居るんじゃないんですか? それなのに、返事がない? 明らかにおかしいじゃありませんか!』 「大学の教室って知ってるか? 学部生はかなりの数が居るから、大きな階段教室で講義を受けるんだぞ。映画とか テレビドラマとかで、お前も見たことはあるだろ?」 『そりゃ、ありますけど……』 「その教室で、保科さんは、はるか前の方に座っていて、俺は後ろの窓際だ。保科さんとは同じ教室に居ることは居るが、 互いにかすりもしねぇよ。どうだ? これなら、毎日同じ教室に居ても、話す機会なんか、ないってことが分かるよな?」 本当は、階段教室を使うのは、講義の極々一部なんだが、まぁいいか……。 保科さんと話せないってのは、階段教室なんかのせいじゃない。 実のところは、さえない俺じゃ、学園屈指の美女であり、本物のご令嬢である彼女に、俺自身が気後れして近寄れ ないんだよな。 『……、何だか嘘臭いですけどぉ……』 半分は嘘だよな。階段教室だからなんてのは口からでまかせに近いもんだし。 でも、保科さんから音沙汰なしってのは本当だからな。 「信じられないなら、保科さんに直接訊けよ。もっとも、俺は彼女の電話番号も居場所も知らない。彼女に連絡を取りた かったら、俺の居場所を探ったように、お前の父親の顧問弁護士とかに相談してみるんだな」 半ばやけくそになって、突き放すような言い方になってしまったが、あやせにしてみれば、俺が強硬な態度を取るとは 思わなかったのかも知れない。 『くぅ……、この変態……』 どんな反論があるかと思いきや、彼女にとっての常套句の一つを呟くように漏らしただけだった。 しかし、俺に言い負かされただけだってのに、変態扱いか。何なんだろうね。 「保科さんの件については、今のところ何とも言えない。もしかしたら、俺たちはお呼びじゃないのかもな。保科さんが 親御さんか何かに、俺たちを招待したいって言ってはみたものの、反対されたってのも考えられるし……」 『……じゃあ、保科さんの件は、ひとまずいいです……。でも……』 おっと、これからが本題だな。気を引き締めていかねぇと、文字通り命取りになる。 『五更先輩の件はどういうことですか? 今日、一時間ほど前に、五更先輩から、“今、私は、京介さんと一緒よ。京介 さんをあなたが独占できるなんてのは大間違い。それを心しておくことね”なんてメールが届いたんですよ! どういう ことですか?!』 「何だとぉ!!」 うわぁ、黒猫の奴、なんてメールを送ってやがるんだ。こりゃ、あやせがブチ切れるのも道理じゃねぇか。 『五更先輩、いえ、あの泥棒猫と今はデートなんですか? どうなんです? 事実をちゃんと答えてください!』 思い込みが激しいからな、こいつは。黒猫のメールに俺が黒猫と一緒に居るって書かれていただけで、俺と黒猫が デートしているって勘違いしてやがる。いや、あの文面じゃ、あやせでなくてもそう思うか。 「い、いや、誤解があるようなんで、それを解きたいんだ。たしかに黒猫とは一緒で、さっきは一緒に買い物をしたところ だ。だが、これはデートじゃねぇよ」 『はぁ?! 一緒に買い物したっていうのに、デートじゃないんですか? どこまで嘘吐きなんですか、お兄さんは!!』 あやせがすさまじい剣幕で怒鳴りまくっている。こりゃ、黒猫と一緒であることを否定した方がよかったかな、とも思っ たが、嘘ってのは思わぬところでばれるからな。ばれた時のリスクは、あやせの場合、洒落にならないくらい恐ろしい。 「黒猫には俺以外の連れが居るんだよ」 『連れ? まさか、桐乃じゃないですよね!』 「違うって! お前も一昨年の夏に、桐乃を夏コミ会場で呼び止めた時に見ている奴だよ。バンダナを頭に巻いて、牛乳 瓶の底みたいなレンズが付いた眼鏡を掛けて、チェックのシャツにジーンズ姿のデカイ奴が居ただろ? そいつが黒猫 と一緒なのさ」 『でも、あの人って女じゃないですか! ちょっと、お兄さん、女の子二人とデートですか?! 不潔です、ふしだらです、 破廉恥です、もう、死ね!!』 うわ、ダメだこいつ。デートってのは一対一でないと成立しないって前提を忘れてやがる。 「あのなぁ……。仮にお前が言うように、黒猫と、デカイ奴、こいつは沙織っていうんだが、この二人とダブルでデートし ているってんじゃ、黒猫と恋愛めいた話なんか出来ねぇよ」 『お兄さんには無理でも、あの泥棒猫は大胆不敵ですから、もう一人、沙織とかいう人が居ても、平気で睦言を口走る んじゃないですか?!』 「そんなことあるかい!」 黒猫って、根は繊細だからな。沙織だって誰かが一緒の時は、俺にデレるようなことはない。確証はないけど、そんな 気がするんだ。それに、そういうのが、人間の感情や感覚として普通だよな。 『どうでしょうか? 不本意ながら、わたし、高校ではあの泥棒猫の後輩なんですけど、学校でのあの人の言動は、何か につけて挑発的で痛々しいんです。そんな人が、そんな控え目な態度でお兄さんに接するとは思えません』 「挑発的って、お前と黒猫との間になんかあったのか?」 『ありましたよ! おおありです!』 「具体的には、どんなことがあったんだよ」 俺は努めて冷静な口調を心掛けたが、それがかえって、あやせを苛立たせたらしい。 『ええい! 今は、そんなことを悠長に話している場合じゃないんです。何ですか、学校で聞いたんですけど、お兄さん は、あの泥棒猫と、キ、キスしたことがあるって話じゃないですか?!』 うへぇ、学校でって、どこの誰から聞いたんだろうか。俺と黒猫が付き合っていると邪推しているのはゲーム研究会の 面々、特に真壁君あたりだからなぁ。もしかしたら、彼から聞いたのかも知れない。オタク嫌いなあやせがゲー研の連中 に接触するはずはないと思っていたんだが、甘かったか。あやせの執念深さは、人並みじゃねぇからな。俺と黒猫の関 係を洗い出すために、必要とあらば、嫌悪感を感じるオタク連中とも接点を持つんだろう。 しかし、黒猫の奴、そんなことを軽々しくゲー研の面々に吹聴するとも思えないよなぁ。 おっと、そんなことを考えてる場合じゃねぇだろ。ここは、しらを切り通すか、はたまた正直に言うかだな。どっちの方が 傷が浅いだろう……。 「あ~~~、その話か……。あれはだな、頬に軽くキスされただけであって、この前のお前みたいに舌入れるようなエロ い奴じゃねぇって」 ちょっとした逡巡を経て、俺は結局事実を口にした。キスした事実を認めるのはヤバイが、嘘はもっとヤバイ。 『やっぱり泥棒猫とキスしていたんですね。もう、本当に、こういう主体性のないフラフラしたところは危なっかしくて見て いられません。だいっ嫌いです。こんなだらしないお兄さんは、ブチ殺しますよ、もう!!』 くそ、地雷だったか……。本当に、こいつキチ▲イの一歩手前だな。扱いにくくってしょうがねぇや。あの淑やかそうな ルックスからは想像も出来ねぇな。ここは、取り敢えず、あやせに形だけでも詫びておくか。 「ま、まぁ、黒猫とのキスも、お、俺がぼうっとしている時にやられたんだ……。す、すまねぇ、た、たしかに、しゅ、主体性、 な、ないよな……。あは、あはははは……」 『笑ってごまかさないでください! 私も、お兄さんと泥棒猫がキスしたと聞かされた時は、まだ嘘だと思いたかったから、 お兄さんに文句は言わずに我慢していたんです。それが何ですか!! こともあろうに、その泥棒猫と一緒だなんて、 本当にだらしがないじゃありませんか』 「そ、そう、悪し様に言うこたぁねぇだろ……」 『もぅ! 事の重大さを全然分かってないじゃないですかぁ!!』 「うへ!」 あやせの怒鳴り声で鼓膜が破れるんじゃねぇかと思ったぜ。ほんと、こいつって、ごまかしが効かないんだよな。 『お兄さんがだらしないのは、もとより承知していましたが、ここまでダメだとは思いませんでした。それに、あの泥棒猫、 高校に入学してからあらためて桐乃を通して紹介されましたが、生理的に無理です。あんな人と付き合うのは』 「生理的に無理って……。散々だな……」 まぁ、黒猫はオタクだし、あやせはオタクが嫌いだし、そりなんかが合うわけがないんだよな、そもそも……。 それでもメアドの交換はしたってことか……。その交換したメアドのおかげで、黒猫はあやせに挑発的なメールを送り、 そのおかげで俺は今、あやせに吊るし上げられている。何なんだよ、この理不尽極まりない展開は……。 『無理なものは、無理なんです! 気持ち悪いんです、本当にあの泥棒猫は。それに、お兄さんには今まで以上に厳し い監視が必要なことが分かりました。今回の件は、“デートじゃない”っていうお兄さんの主張をひとまずは受け入れま すが、今後はこのようなことがないようにしてください』 「………………」 三歳年下の女子高生に説教されて、言い返せない大学生ってどうよ? 情けなくって涙が出てきそうだ。 『保科さんの野点がどうなったのかが現時点では不明ですが、それには構わず来週末はそちらへ行きます。とにかく、 お兄さんは、わたしが付き添っていなくちゃ、まるでダメなんですから』 「………………」 なんか、ここまで言われると、幼稚園児か禁治産者、おっと、今は成年被後見人だっけか? とにかく、まっとうな 人間としての扱いじゃねぇよな。死にたくなってくるぜ。 『ちょっと、お兄さん聞いています? そうやって、人の話を、ぼうっと聞き流しているから、あんな泥棒猫とか、保科とか いう同級生にちょっかい出されるんです。もうちょっと、気を引き締めて毎日を送ってください。いいですか!!』 その怒鳴るような一言を最後に、通話はあやせの方から一方的に打ち切られた。 「はぁ~~~っ」 俺は大きなため息を吐くと、携帯電話機を折り畳んでシャツの胸ポケットに突っ込んだ。 あやせもあやせだが、黒猫も黒猫だ。何で、あんな挑発的なメールを送り付けたんだろう。 「おお、京介氏。ちょうどお茶とケーキが届いたところですぞ」 喫茶室に戻ると、沙織が、牛乳瓶の底のようなレンズが嵌った眼鏡越しに、害のなさそうな笑顔を俺に向けてきた。 騎士鉄十字章を巡る商談も万事がうまくいったらしい。 「でも、ずいぶん長かったのね……。たまたまちょうどよかったけど、これ以上、遅くなったら、お茶が冷めてしまうところね」 何気ない口調だったが、俺を見て、邪険そうに口元を歪めたような気がした。 こいつ、俺があやせにこっぴどく叱られたことを分かってやがるな。 「二人の商談の邪魔にならないように、これでもタイミングを見計らっていたんだぜ。俺は、けっこう気遣いな人間なんでな」 黒猫が意地悪そうに双眸を半眼にして、にやついているような気がした。 「まぁ、まぁ、黒猫氏。京介氏にも事情がおありなんでござろう。それに、せっかくお茶が届けられたのですから、まずは これを嗜みましょうぞ」 沙織に急き立てられるように、俺は丸テーブルの一角、そこに設けられていた黒い鉄フレームに赤いチェック柄の クッションが座面に付いている椅子に腰掛けた。 椅子の鉄フレームとテーブルの脚部にはアラベスク・パターンっていうんだろうか、蔓草が絡まるような模様の意匠 が施され、シックな雰囲気を醸し出している。 「やっぱりポットで出されるんだな」 俺は、乳白色の磁器、おそらくはボーンチャイナだろうポットの蓋を開けてみた。 ポットの中では茶葉が開き、ほわーんとした暖かい紅茶の香りが漂ってきた。 「最近は、けしからんことに、結構有名なホテルの喫茶室でも、ポットの中はティーバッグということがありますが、ここ はちゃんとリーフティーを使っておりますぞ」 俺の右隣に座っている沙織が、口元をほころばせている。 リーフティーを飲み慣れているであろう沙織にしてみれば、ティーバッグではなく、ちゃんとリーフティーで淹れてあっ たことが嬉しいのかも知れない。 「せっかくだから、そろそろいただきましょう……。これ以上、待っていたら、お茶が冷めてしまうし、濃く出すぎてしまい そうだわ」 黒猫のもっともな指摘で、俺も沙織も各自にあてがわれたポットからカップに紅茶を注いだ。これもボーンチャイナ製 らしいカップには、淹れたての紅茶が鮮やかだった。 本来ならここでミルクを入れるところなんだが、紅茶の色があまりにも美しいので、ミルクは入れず、砂糖も入れずに、 そのままで飲んでみた。 「お? かすかに薄荷みたいな風味がする……」 これならミルクなし、砂糖なしの方が美味しいかも知れない。 「京介氏がお頼みしたウバは、ミントに近い清々しい香りが特徴でござる。この清涼感を好まれる方は、もっぱらウバ ばかり飲まれるようですな」 「そうなんだ……」 先日嗜んだ抹茶といい、今飲んでいる紅茶といい、嗜好品ってのは奥が深いな。この街での暮らしに余裕が出て きたら、好みの茶葉を買ってきて、下宿で楽しんでみたいもんだ。 「こっちのダージリンも、巷で飲むようなものとは香りも味も大違いね……」 「ダージリンには色々とグレードがありますからな。拙者も紅茶のことはそれほど詳しくないのでおじゃるが、おそらくは、 高地で特別に栽培された高品質な茶葉を使っておりますぞ」 黒猫と沙織の前には、黒に近い暗褐色をしたケーキが、それぞれ置かれていた。 さっき二人が注文していたザッハトルテとかいうやつなんだろう。その鋭角に尖った部分を、黒猫はフォークで切り分 けるようにして、ブラックなチョコレートで覆われた一片をすくい取った。 「中まで真っ黒なのね……。でも、このケーキは表も黒だから、中が黒でも罪ではないわ……」 「これは、これは、ずいぶんと意味深な一言でおじゃる……」 何となく剣呑なものを察したんだろう。沙織が混ぜっ返そうとしたが、黒猫は、赤い瞳の双眸を瞬きもさせずに、皿の 上のケーキをじっと見つめている。 「反対に、表が白くて、中も白い……。そういうのは空々しくって、何だか腹が立つわね……」 「お、おい、黒猫、お前は何を言ってるんだよ」 「最悪なのは、表が白で、中が真っ黒っていう場合ね……。無垢を装っていて、本当は腹黒い……。そんな人間が多過 ぎるのよ」 「黒猫氏……」 黒猫は、俺や沙織の困惑をよそに、すくい上げたケーキの一片を口に運び、じっくりと味わうつもりなのか、何回か もぐもぐという感じで口を閉じたまま顎を動かした。 「少し苦いわね……。でも、それが現実なんでしょうね」 黒猫の言わんとするところは、鈍い俺でも察しはつく。何せ、つい先ほど、黒猫から挑発的なメールを送られたと主張 する人物に、電話で散々に詰られたんだからな。 「……お前、あやせのことを言っているのか……」 「あやせ殿とは、たしか、きりりん氏の親友とか申すお方ですかな?」 黒猫は、俺の顔と沙織の顔に視線をさまよわせ、それから軽く頷いた。 「お、おい、あやせと何があったか知らねぇが、あいつはそんな腹黒い奴じゃねぞ」 だが、黒猫は、俺の言い分を一蹴するかの如く、小さな鼻孔からフンッ! とばかりに息を噴き出した。 「この前の月曜日に、新垣あやせとかいう、あの女が何をしたのか……、それを知れば、あなただって納得がいくはずよ……」 それだけを押し殺した声で呟くように言うと、黒猫は、一瞬だけ赤い瞳で俺を睨みつけ、ゆっくりとうつむいて押し黙った。 和やかであるべきはずの茶話会の雰囲気が、黒猫の呪詛のおかげで、一気に重苦しくなっっちまったじぇねぇか。 「黒猫……。あやせと一体何があったんだ……」 「黒猫氏。せっかく、京介氏に再会できたという折に、そうした物言いは、あんまり宜しくございませんぞ」 黒猫は、俺や沙織には構わず、自らが放散した重苦しい雰囲気を確かめているかのように、じっと瞑目している。 「黒猫……。おい、何とか言ってくれよ……」 黒猫は瞑目して沈黙したままだ。俺は、かりかりとこめかみの辺りを掻き、ため息交じりで沙織の顔を窺った。 「……黒猫氏が、頑ななのは今に始まったことではござらんが、この場に居もしない人物のことを、ああまで悪し様に 言われるのは、ちょっと尋常ではござらん」 「そうだよな、こんなのは、普段の黒猫らしくない……」 「黒猫氏にとって、ああまでして言いたいことが、この前の月曜日には、やはりあったんでござろう。そして、それが何で あるかは、京介氏もある程度はご存知なのではありますまいか?」 「まぁ、何となく察しがつくって程度だけどな……」 あやせの奴、俺の下宿を訪れて俺と一夜を過ごしたとか、キスをしたとかを、黒猫に洗いざらいぶちまけたんじゃない だろうか。 黒猫との口論の挙句、半ばやけくそになって言っちまったんだろう。 だとしたら、俺と会って、俺と過ごしたってことは、絶対に桐乃や桐乃と関係がある人間には秘密にするという約束は、 早くも反故かよ……。 「あの女が何をしたのか、話してもいいかしら?」 目をつぶっていたはずの黒猫が、いつの間にか、赤い瞳で俺と沙織を交互に睨め付けていた。 「拙者は、ちと席を外しましょうかな……」 空気を読んだ沙織が立ち上がろうとした。 「あなたにも聞いて欲しいのよ。この前の月曜に何があったか……」 「そういうことなら、拙者もお伺い致しますぞ。しかしながら……」 「あら……、何か不都合でもあるの? それとも、何か不服があるのかしらね……」 「話の中身によっては、拙者も第三者の立場で冷静に対応することが難しいかも知れぬということでござる。拙者とて、 京介氏に関わることとなれば、多少の利害関係は有しますゆえ……」 俺は驚いて沙織の真意を確かめるつもりで、彼女の顔をあらためて窺った。 その沙織は、眉をひそませ、忌々しそうに下唇を引きつらせている。いったい、これはどういうことなんだ。 「……なるほど、そういうことね……」 そう呟いた黒猫は、うつむいて、「くっ、くっ、くっ……」という嗚咽にも似た含み笑いをしてやがる。 「な、何だよ、何がおかしいんだよ?!」 事態を把握しかねている俺に、黒猫が侮蔑のこもった冷やかな目を向けていた。 「鈍いわね。あなた、ここまで鈍いのは犯罪的だわ」 「鈍くて悪かったな。俺は、面倒臭いことは苦手なんだよ」 「でも、そんな鈍いあなたでも即座に理解できるほど、これから私が言うことは簡明なのよ」 「勿体つけずにさっさと言ってくれ。鈍い俺でも、お前が言いそうなことは分かってるけどな」 「そうかしら……。あの女が私に何を告げたのかは大体は分かっているつもりでも、それを告げられた私や、それをこれ から聞かされる沙織の気持ちというものを、どうやらあなたは過小評価しているみたいね……」 黒猫が、整った面相を一瞬だけだが般若のように歪め、赤い瞳で俺を睨め付けた。黒猫の身体から、憤怒、憎悪、 妬み、嫉みといった負のオーラのようなものが、ぶわっと一気に放射されたような感じがして、その雰囲気に俺は 思わずたじろいだ。 「……黒猫氏。京介氏は、どこまでも鈍い方ゆえ、単刀直入に申された方が宜しかろう……」 「そうね……、前置きが長すぎたかしら。手短に言うわ……。この前の月曜日の放課後、私は、あの女に校舎屋上へ呼 び出された。そのときに、あの一見清楚で実は底なしに腹黒い女は、先週末にこの街のあなたの下宿先を訪れ、あなた の部屋で寝て、あなたとディープキスを交わしたって……」 沙織の表情が、むっとばかりに険しくなった。眉をひそめ、口をへの字にして、敢えてだろうか、俺には目もくれず、 喫茶室の壁の一点辺りを凝視しているように見えた。 「……それも、あの女、胸を張って誇らしげな態度で言い放ったのよ。ねぇ、元先輩、これは事実なのかしら……。 それとも、あの女の狂言めいた与太話なのかしら……。それを、はっきりさせて欲しいわね」 黒猫の畳み掛けるような問い掛けで、俺はある覚悟を決めた。 「……下宿先にあやせが来たのは事実だ……。それ以外のことは事実に反する……」 あやせとの電話で、馬鹿正直に振る舞うことの愚かしさを痛感したからな。 黒猫と沙織には悪いが、ちょっとばかり嘘を吐かせてもらうことにした。 もう、一方的に不手際を詰られ、腐されるのはうんざりなんだよ。 「あら、へたれなあなたらしくない……。てっきり、あの女の押しの一手で、ずるずると関係を結んだかと思ったのに、違う のかしら」 「俺にだって節操てぇもんがあるからな。あやせが俺の下宿に来たことは確かだが、ここでの俺の暮らしを、ほんの二、 三時間ほど見届けて、そのまま帰ったよ。だから、俺の部屋で寝たとか、キスをしたとか、そんなのはない」 「……変に自信たっぷりなのが怪しいけど……」 あやせが俺の部屋で寝たのは事実だが、俺は居たたまれなくなって、別の部屋で雑魚寝したからな。まるっきり嘘 じゃないさ。 それを拠り所にして、嘘を吐き通してやるぜ。 だが、それでも突っ込まれる部分は色々とあるけどな。 「……京介氏……。これはどういうことでおじゃるかな? 京介氏の居場所は、誰に対しても秘密であったはず。それが なにゆえ、あやせ殿が京介氏の下宿を知り得たのでありますかな?」 さっそく来たか……。 ぐるぐる眼鏡越しなので、はっきりとは分からないが、沙織が非難がましい目で俺を見ているのは明らかだ。 俺が自分の居場所を、あやせにだけ教えたと思っているんだろう。 「あやせは、父親の顧問弁護士に頼んで、俺の居場所を探り当てたんだよ。何でも、俺は、性犯罪者予備軍だから、 野放しには出来ないんだとさ。どうだ? こんな扱いを受けているのに、寝泊まりとかキスとかあり得ねぇだろうが」 「なるほど……。弁護士を通じて、京介氏の戸籍を調べることは確かに可能でおじゃるな……」 どんな方法を使ったのか知らないが、沙織も俺の居場所を突き止めているからな。 そのことは、黒猫にも内緒なんだろう。 だから、あやせが俺の下宿先を突き止めたってことは、これ以上追及出来まい。 「……ふぅむ……」 沙織が、口をへの字に曲げたまま、考え込むように、下顎に人差し指を添えている。 何か腑に落ちないものを感じながらも、黒猫が居る手前、思い切ったことが言えない苛立ちのようなものが俺にも 感じ取れた。 沙織には悪いが、取り敢えずはごまかせたらしい。 俺は、冷静さを装うつもりで、カップのお茶をゆっくりと飲み干し、お代わりをポットから注いだ。 冷たく白々しい空気の中に、生温かい湯気がほんのりと漂っている。 「でも、何かおかしいわ。あの女が、あなたのことを性犯罪者予備軍と認識しているのなら、何でわざわざ、あなたに会 いに来たのかしらね」 「知らん。あやせって女は、ちょっとおかしなところがあるようだからな。そんな奴の考えることは分からねぇよ。知りたきゃ 本人から聞け。お前は、あやせと同じ高校に通っているんじゃねぇのか?」 「それはそうだけど……」 黒猫とあやせは互いに嫌悪しているんだな。本当は小心な黒猫にしてみれば、この件で、あらためてあやせを直接 問い詰めるようなことはしたくないはずだ。 「とにかく、俺の部屋であやせが寝たとか、俺があやせとキスしたとかは、事実無根なんだよ」 「……………………」 黒猫は、半眼で俺を睨め付けている。『お前は嘘を言っている』とでも思っているんだろう。 その通り、俺って、もう嘘まみれだな。何でもそうだが、一線を越えると歯止めってもんが効かなくなるらしい。 それに嘘を吐くとき、後ろめたさから動揺するってのも正しくないようだ。嘘を吐き通す覚悟みたいなもんがあれば、 どうってことはないんだな。 「お前とあやせの間にどんな諍いがあったのか知らないが、お前とあやせは、屋上で口論になったんだろ?」 「……そうね……、どこで耳にしたのか知らないけど、私があなたに……」 そこまで言いかけて、沙織が居合わせていることに、はっとしたんだろう。 俺とキスしたことは沙織にも内緒のはずだ。言える訳がない。 「どうされましたかな? 黒猫氏……」 今度は沙織が黒猫に疑惑の眼差しを送っている。本当のところは、沙織も気付いてはいるんだろう。後はそれを黒猫 が認めるかどうかだ。 だが、その沙織だって俺の居場所を桐乃や黒猫に黙って勝手に調べ上げていた。 それが黒猫に対する一種の負い目になっているはずなんだ。 俺も含めて、この場に居合わせている全員が嘘吐きなんだ。こうなりゃ、毒を喰らわば皿までもじゃないか。 「それはそうと、黒猫……。お前、先ほど、あやせに挑発的なメールを送ったらしいな」 「いきなり何を言い出すのよ……」 「お前だって、俺とあやせがキスをしたとか、いきなり言い出したじゃねぇか。人のことはとやかく言えねぇだろうが」 黒猫が、むっと、顔を歪めて、俺を睨んでいた。 「京介氏、そのぐらいにしてくださらぬか。この場は、本来、和やかにお茶を楽しむべきでありましょうぞ。京介氏らしから ぬ傲岸な振る舞いで、黒猫氏が可哀想でござるし、場の雰囲気が台無しでござる」 沙織は、腕を組み、眉を吊り上げた険しい表情をしていた。 何だよ、何もかも俺が悪いと言いたげじゃねぇか。 そもそも、場の雰囲気を悪くするような話題を持ち出したのは、誰なんだよ。 「それは黒猫にまずは言うべきだろ? それだけじゃねぇ。俺は、黒猫があやせに挑発的なメール、あやせの話だと、今、 俺と一緒で、俺をあやせが独占できるなんてのは大間違いだ、とかいうのを送りつけられたっていうんだ。 それが事実なのかどうなのかを知りてぇな」 「……そんなことを知ってどうするの?」 黒猫め、しれっと抜かしやがった。むかつくぜ……。 「お前も気付いているんだろうが、お前のはた迷惑なメールのおかげで、俺はお前らが騎士鉄十字章とかの譲渡交渉 をしている間、そのメールを送られた人物から電話で散々に文句を言われたんだぜ。こんな理不尽な話があるかよ」 「あら、その人物に、今ここで私と一緒だってことがばれた程度のことで、なんで文句を言われるのかしらね……。そっち の方が余程おかしいでしょ?」 この野郎……。可愛くねぇ。本当に可愛くねぇよ。黒猫って、これほどまでに嫌な奴だったのか……。 「お前とあやせは口論になって、あやせはお前のことを心底嫌悪しているようじゃねぇか。そのお前と俺とが会っている んじゃ、そりゃ面白くねぇだろう」 「論点をぼかそうと必死ね……。哀れだわ」 「お前に哀れんでもらう筋合いはねぇよ!」 「京介氏! そろそろ控えられよ。それに、黒猫氏もでござる。険悪な雰囲気は、落ち着いたこの喫茶室にはふさわしく ありませんぞ」 諫めようとしている沙織の声の方が場違いに大きかったけどな。 黒猫の不遜な態度にはむかつくが、そろそろ潮時か。 これ以上、こいつを追及したら、本当に喧嘩別れになっちまう。そうなったら、二度と和解なんてできないだろうからな。 「そうだな……。沙織の言うように、俺も少々大人げなかったようだ。お前は、あやせに挑発的なメールは送っていない。 これでいいんだな?」 「……そうね……」 多分、嘘なんだろうが、俺だって嘘吐きだからな。 「で、おれとあやせの間には、キスとか何とかの、いかがわしい行為はなかった。そういうことでいいな?」 「…………………」 黒猫は、うつむき加減で俺を恨めしげに睨み、沙織は、先ほどのように腕を組んで、虚空だか喫茶室の壁だかを 無意味に凝視している。 二人とも、明らかに納得していない。 特に、こんなにも不機嫌丸出しの沙織を見るのは、これが初めてかも知れない。 その沙織は、急に黒猫に何事かを耳打ちし、俺に向き直った。 「京介氏……」 「いきなりあらたまって、何だよ」 「誠に申し訳ないのでござるが、再び、席を暫し外していただきとうござる……」 いつになく真剣そうな沙織の顔と、恨めしげに半眼の黒猫の顔を交互に見やった。 是非もない。俺が居ない間に、俺の扱いをどうするか決めるんだろう。いわゆる欠席裁判ってやつか。 「いいよ、俺も、ちょっと外の空気を吸いたいと思っていたんだ」 俺は、ゆっくりと立ち上がり、先ほど俺たちを席に案内してくれたフロアマネージャー然とした初老のウェイターに、 「ちょっと、洗面所へ……」とだけ告げて喫茶室を出た。 ロビーを横切って、フロントで洗面所のありかを尋ね、ロビーから奥まったところにある洗面所へ入り込んだ。 「畜生……」 呪いの言葉を呟きながら、蛇口からほとばしる冷水を両掌で受けて、それで顔をザバザバと洗った。 白々しい嘘を吐いて自己保身を図ったこと、その上、黒猫の態度を責め立てたこと、バカ正直が取り柄であるはずの 俺が薄汚れてしまったような気分だった。 特に、黒猫に対する振る舞いは、そのちょっと前に電話であやせにこっぴどく詰られたことに対する、鬱憤晴らしの ようなもんだったのかも知れない。 「俺って、ダメな人間だな……」 今頃、沙織と黒猫は、俺を沙織のサークルから追放するか否かということまで話し合っているに違いない。 俺としては、喧嘩別れをしたくなかったから、黒猫への追及を途中で打ち切ったつもりだったが、当の黒猫やそれを 見ていた沙織には、俺の言動とか態度が相当にひどいものと映ったようだ。 「サークルを追い出されたとしても、しょうがないよな」 もとより、首都圏から遠く離れたこの街に追いやられ、黒猫や沙織への連絡も禁じられていたんじゃ、実質的には、 もう脱会しているようなもんだ。 「しかし、あやせが『性犯罪者予備軍』って罵ったが、本当にそんな感じだな……」 黒猫と口論したばかりというのもあるんだろうが、自分でもぞっとするぐらい人相、特に目つきが高校時代に比べて 悪くなっていた。 故郷を追い出され、頼れる者が皆無の状態で、もがき苦しんできた結果がこれだ。 『苦難が人を育てる』とか、もっともらしいことをいう奴が評論家とか、政治家とか、財界人とかに居るが、糧になる苦 難と、そうでない苦難とがあるはずだ。そして、俺が今直面している苦難は、俺自身を劣化させる類のものでしかない。 俺は、我ながら人相が宜しくないその面をハンカチで拭った。 嘘を吐く覚悟があれば気持ちは動揺しないとか強がったが、嘘を吐くというのは、やはりいつもと違う緊張感を強い られるのか、額や鼻筋や頬が、普段とは違う臭いの汗だか脂だかでギトギトしている。 「嘘吐き野郎の罪の汚れというか、穢れだな……」 だが、今さら、『嘘でした』なんてのは絶対になしだ。一度嘘を吐いたら、その嘘をとことん吐き通すしかない。 洗顔しても心は晴れなかったが、俺はそろそろ頃合とみて、喫茶室に戻ることにした。 席では、沙織と黒猫が眉間に皺を寄せた険しい表情のままで座っていた。 二人とも、俺が元居た席に座っても、眉一つ動かさない。 「で、二人きりでの話し合いとやらは、まとまったのか?」 険悪な雰囲気ではあったが、黙っていては埒が明かないからな。 その一言で、険しい表情のままではあったが、ようやく沙織が俺の方を向いた。 「京介氏……。黒猫氏とも意見が一致したのでござるが、本日、拙者たちは、ひとまず帰ることに致しますぞ」 「そうなんだ……」 俺は、しくじった、やりすぎたんだ、と後悔したが、出来るだけ平静さを装った。一応は、体面があるからな。 沙織とも黒猫とも、このまま喧嘩別れのような状態で、永遠にさようならなのかも知れない。 「しかしながら……、京介氏も、新しい生活に馴染むか馴染まないかの時に、拙者たちが押し掛けたというので、 少々お気持ちが昂ぶられていたのではないかと推察致しまする」 「いや、そういうわけでもないんだけどよ……」 「とにかく、本日は、少々不本意な形でのオフ会となりましたが、これだけをもって、万事を決め付けることは出来ませぬ ゆえ……」 沙織の含みのある言い方は、どう解釈すべきなんだろう。 こうした持って回った言い方……、今までは気にならなかったが、今日は、先ほどの諍いの余韻のせいか、妙にイラッ とさせられる。 「『これだけをもって』ということは、別途、何かがあるってことなのか?」 「鈍いわね……。もう一度、仕切り直しのつもりで会いましょう、ってことよ」 「黒猫氏、その言い方は感心しませんぞ」 相変わらずだ。 黒猫って、こうやって無駄に敵を作るんだよな。あやせとだって、結局はこんなやりとりで、関係がこじれたんだろう。 今日は、俺も危うく黒猫を敵にするところだったからな。 「言い方はどうあれ、もう一度、お前らが来ることは分かったよ」 「しからば、まぁ、そういうことで……。来週の日曜日に、再び、この街にお邪魔致しますぞ。宜しいですかな?」 「ちょ、ちょっと、待て! それじゃいくら何でも早すぎる」 まずいぜ。来週末の土曜日は、あやせがやって来る。保科さんの家で催される野点に俺共々行くためにだ。 野点の招待状は未だに保科さんから受け取っていないが、あやせは、野点があろうがなかろうが、そんなものにはお 構いなしに、この街にやって来て、俺の下宿に上がり込むだろう。そうなったら、日帰りということはまずあり得ない。 この前みたいに、下宿に泊まり込み、翌日の日曜日も俺を監視するという名目で、俺につきまとうに違いない。 この街で、黒猫と鉢合わせでもしようものなら、マジで流血の惨事だな。 「都合でも悪いの?」 こいつは、腹が立つほど人の痛いところを遠慮なく突いてくるな。悪意があってやってるわけじゃなくて、これが黒猫 の地なんだろう。 こいつに友達が少ないのは、こんな風に思ったことを率直に口にしてしまうこと、それが原因の一つのような気がする。 「いや……。別に、一瞬、何か予定が入っているかと思ったが、勘違いだったようだ」 意味もなく率直なのもどうかと思うが、嘘はもっとまずいよな。 これで、今度の週末にやって来るあやせをどうするか、という難問を抱えることになっちまった。 「京介氏のご都合が宜しいようですので、それでは、来週末の日曜日に再びお会いするということに致しましょうぞ。 なお、当日の詳細なスケジュールにつきましては、黒猫氏とも協議の上、追って、京介氏にご連絡申し上げるでござる」 なんだい、時間に関して俺の都合はお構いなしかよ。これには少々むかついたが、我慢した。 下手に不満を口にして、今週末にあやせもやって来ることを気取られるようなことがあってはならないからだ。 「ああ、そうしてくれ。スケジュールは空けておくよ」 ことさら鷹揚に頷いてみせた。不自然な演技だったかも知れないが、何とかごまかせたと信じたい。 俺は、自身を落ち着かせるつもりで、ポットの中に未だ少しは残っているはずの紅茶をカップに注いだ。 だが、それは、すっかり冷め切っていて、茶葉が長時間お湯に浸っていたために色が異常に濃い。 俺はカップの中身を一口すすって、思わず顔をしかめた。 「そんなもの、よく飲めるわね……」 不愉快な指摘だが、全くその通りだな。 冷たい上に、渋くって、苦くって、とてもじゃないが飲めたもんじゃない。 「紅茶は、飲み頃がありますれば、それを逸すると、かようなことになり申す」 時機を逸する羽目になったのは、沙織が俺に席を外すように命じたからじゃないか。 そう思うと理不尽極まりないが、この場で、諍いを蒸し返すのも面倒くさい。 「民事訴訟法っていう裁判に関する法律でも、『適時提出主義』ってのがあるんだ。何にでも頃合ってのはあるんだろうな」 「ほう、裁判で証拠の提出が遅れると、裁判所はそれを証拠として扱ってくれないとか、そんなものなのですかな?」 さすがは沙織だな。 え~と、根拠条文は民事訴訟法百五十六条だったよな。それはともかく……、 「ああ、概ねそんなところだ。世の中ってのは、万事がそんなもんなんじゃねぇの?」 「そうかも知れませぬな……」 俺の紅茶がすっかり冷めてしまったことを察したフロアマネージャーと思しき初老のウェイターが俺の傍らに来て、 紅茶のお代わりはどうかと訊ねてきた。 しかし、もう、この喫茶室を出る頃合だろう。 大声で怒鳴り合ったりはしなかったが、落ち着いた雰囲気のこの喫茶室に、ぎすぎすした敵意と悪意を撒き散らした のはたしかなんだ。 各々が紅茶や菓子の代金を支払い、あの初老のウェイターに「ご馳走様でした」と告げ、俺たちはロビーを横切って、 ホテルの外に出た。 「駅まで送ろうか?」 しかし、相手方は頑なだった。 「せっかくでおじゃるが、ここはこの場でお別れした方が宜しいでござろう。それに、拙者たちは、ちょっと、この街の観光 名所を見て回りますゆえ」 もう夕方になるし、コートやら、マントやらのかさばる冬物アウターを入れた、でかい紙袋を抱えてか? 嘘くせぇ。 だが、そっちがそうなら、それでいいや。 「ああ、それなら、このホテルの前で解散しよう……」 俺は、沙織と黒猫に二度、三度、軽く右手を振ると、くるりと背を向けて歩き始めた。 ひとまず関係の破綻は免れたが、きわどい状況だっただけに、心は晴れなかった。 「沙織や黒猫の言動が、今日に限って、妙にイライラさせられたぜ」 黒猫は、以前は俺に恋愛感情みたいなものを抱いていたようだが、あやせのこともあってか、今や俺を恨み、呪って いるんじゃないかと思う。 沙織も、黒猫との諍いがあったことを割り引いても、どことなくよそよそしかった。 俺が実家を追い出されて一箇月ちょっとの間に状況は変わった。 沙織や黒猫の心境にも、相応の変化があったのかも知れない。 「何より、俺が、高校時代とは変わっちまったんだろうな……」 さっき、ホテルの洗面所で見た顔は、おそろしく人相が悪かった。 この一箇月、頼れる者が皆無の慣れない環境で頑張ってはみたものの、手に入れたのが、あの悪人面じゃ救いが なさ過ぎる。 もう沙織とも黒猫とも、以前のような親しい間柄ではないという寂しさ、先行きへの不安、さらには、やり場のない怒り が、気持ちをいっそう萎えさせる。 俺は、街をあてどもなくさまよい、ほっつき歩き始めて一時間以上過ぎてから、ようやく地下鉄の駅に行き着いた。 だが、俺は乗る気にはなれず、そのまま下宿があるはずの西の方へと歩み、夕日が街を囲む山々に沈みかかる頃に なっても当てどもなく歩き続けた。 あたりが薄暗くなりかけた頃、路面電車の線路が敷設された見覚えのある道路に出た。そのままその道路に沿って 進み、午後八時近くになって、どうにか下宿に帰ることができた。 「遅くなって済みません……」 下宿の女主人に、夕飯に遅れたことを詫び、洗面所で手を洗ってから、八畳間で独りっきりで飯を食う。 食欲はなかったが、出されたおかずと、味噌汁一杯と、ご飯一膳だけは、無理をしてでも腹に収め、その夕餉をこしら えてくれた女主人にいつものように「ご馳走様でした。美味しかったです」と告げて、自室に引きこもった。 心も身体もひどく疲れていた俺は、何もする気になれず、布団を敷いて、早々に横になった。 瞑目すると、後味の悪い別れ方をした沙織や黒猫の姿が浮かび、次いでキスをねだるあやせの顔が浮かび、 さらには和服姿の保科さんの姿が脳裏に浮かんできた。 「どうなっちまうんだろうな……」 そんなことを愚痴るように呟きながら、俺はいつしか深い眠りに落ちていった。 (『風』後編に続く)
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第二話↓(特別短縮編) ―――翌日、優馬は部屋で今日の授業の用意をしていた。 優馬「今日は、英用語・科学・戦略だな。よ~し!」 いつもの朝を向かえ、Mスクールへの道を歩き出した優馬。 ふと見ると、前を歩いているのは沙織だった。思わず優馬は駆け寄った。 優馬「田村さん、おはよっ!」 沙織「あ、優馬!おはよう。どうしたの?わたしと同じ時間に歩いてるなんて。いつもは、 もっと早いんでしょ?」 優馬「朝の時間使って、今日の予習をしておいたんだ。また隼人に会うかもしれないから。」 沙織「フッ・・・そう。」 優馬「・・・ねえ、田村さんは隼人のこと嫌いなの?」 沙織「え?好きとか嫌いとか考えたことないなっ。まぁ、別になんとも思ってないけど。」 優馬「へぇ~。」 ――教室 生徒たち「がやがやがやがや・・・。」 隼人「それであいつがこうなってよ~!!・・・おっ、優馬に沙織じゃん。」 優馬「よ!」 沙織「・・・・。」 隼人「なんだよ優馬。仲良く登校か?」 優馬「別にいいじゃないかっ!会ったから一緒にきただけだよ!」 武田「おはようございます。」 隼人「おわっ!」 生徒全員、慌てて席に着きさっきまでざわついていた教室は 一瞬にして静まり返った。 武田「いつも思うけど、なんでお前らはオレがきてから席に着くの!?なんで!? 自分でしっかり時計見て行動せぇっ!いいか!!」 生徒一同「・・・はい。」 武田「はい、連絡します。昨日の帰りにも言いましたが、今日も短縮授業です。 それに今日は先生たちでテストの用意をしなくてはならないので、いつもの 50分授業ではなく45分授業です。これでみなさんはさらに午後の時間を使えますね。 以上で連絡を終了します。朝学活の終了まで時間はあるので、テスト勉強するなり あとは個人で行動するように。くれぐれも静かにお願いします。では以上。」 ―――朝学活終了。一時間目開始。一時間目、英用語。 ニック「これは、メーサーと読みますね。」 彼の名はニック。Mスクールの英用語を担当。気弱さからか、 多くの生徒になめられている。 生徒たち「あ・・そう。」 ニック「あ・・そう。ってそれだけかよお前ら!」 隼人「どうせ授業はもう終わりだよ。もういいから、これで終りにしようぜ。」 ニック「・・・や~べ。」 キンコンカ~ンコ~ン♪ ニック「これで英用語の授業を、終わりにします・・・。(トホホ)」 生徒たち「ギャハハハハハッ!!」 二時間目、科学の授業。 湯原「では、怪獣を蹴った時、怪獣はどのようになるでしょう。」 湯原徳光(ゆはらとくみつ)。Mスクールで科学の授業を担当している。 過去には防衛軍に協力したことも。今、生徒たちにバカみたいな質問をしているが、 生徒たちは模擬戦で人しか蹴ってないのでそれより重い、怪獣を蹴ったらどうなるかは 分からないのだ。 優馬「はい。」 湯原「ん。はい、皆本くん。」 優馬「僕たちは人しか蹴ったことがないので、詳しくは分かりませんが、もしかすると 人を蹴った時と同じように怪獣を蹴った途端、「運動エネルギー」が働き怪獣も 僕たちのように、吹っ飛ぶのでは?」 湯原「ふむ。かなり正解に近い答えだが、今の君たちでは怪獣を蹴り飛ばすなんて無理だな。 Mスクールの実技を習っているだけじゃ、とても適わない。M機関での本格的な特訓が 必要になってくるな。」 生徒たち「ほぉ~。」 キンコンカンコ~ン♪ 湯原「それでは、今日はこれまでにしよう。」 三時間目:戦略の授業。 篠田「M機関に入隊するには様々な戦いに対応する必要がある。そこで今日は、 水中戦での戦い方を学ぼう。普通の人間では全く水中戦には向かない。しかし お前達ミュータントは、最低でも「一時間」の潜水が可能だ。」 篠田雄二(しのだゆうじ)。Mスクールで戦略の授業を担当している。 これまで紹介した教師の中では、最年長である。 篠田「しかし、水中では動きが急激に鈍ってしまうので肉弾戦による戦闘は困難だ。」 隼人「・・・ちっ。オレの得意分野は使えないってわけか。」 篠田「そこで注目するのが光線系の攻撃だ。水中では光線の速度も減速してしまうが、 敵も動きは鈍るため減速した光線をかわすのは困難になるだろう。」 篠田は黒板に書きながら言う。 キンコンカンコ~ン♪ 篠田「チャイムだ。では、今日はここまで。」 優馬「これで今日の授業は終了だな。」 武田「さて、今日も無事に終了しましたね。明日はいよいよテストですか・・・・。 本当に君たちは明後日からこの学校にはこないのですね・・・。そう考えると寂しいです。 …では、もう君たち試験生には連絡することはないです。午後は勉強に専念すること。 みなさんが合格するよう、心から祈っています。しかしそう簡単には点数は取らせません! 解散!と言いたいところですが、みんなに通知表を返さねばなりません。呼ばれた生徒は 返事をして取りにくるように。」 そして全生徒に通知表が配られた。 優馬「オレの成績は?」 皆本優馬・通知表 兵器:◎ 格闘:○ 知識:◎ 授業態度:◎ 積極性:○ 協調性:○ 『備考』 成績優秀で特に言うことはありません。ただ完璧主義過ぎるのでもう少し気楽に行きましょう。 沙織「私の成績は?」 田村沙織・通知表 兵器:○ 格闘:○ 知識:◎ 授業態度:○ 積極性:△ 協調性:○ 『備考』 平均的な成績で特に言い分はありませんがもう少し得意分野を持つともっといいですよ。 隼人「オレの成績は?」 平岡隼人・通知表 兵器:○ 格闘:☆ 知識:○ 授業態度:× 積極性:○ 協調性:△ 『備考』 格闘の成績は群を抜く腕前です。しかし机の上に足を組んだりするのは厳禁です。 隼人「あ~あ、もう武田さんの説教を聞くことができないんだな。」 沙織「散々、うざいって言ってたクセに。」 優馬「あとはこの試験に合格して、それからはM機関での任務だ!ん~!燃えてきた!」
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